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病院再生への道 [戦略篇]

病院経営はなぜ失敗するのか。それは戦略がないからだ。公認会計士が「銀行を納得させる病院再生計画立案」のノウハウを公開。どうすれば患者に選ばれる病院になれるか。患者満足度を向上させることができるか。崖っぷちまで追いつめられた病院を救うことができるか。その知恵がここにある。

新日本監査法人 新日本バブリック・アフェアーズ
公認会計士 長谷川直樹

なぜ病院再生は手遅れになるのか

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長谷川直樹 公認会計士

われわれは、病院の戦略立案コンサルティングを行っています。

  再生案件は、だいたい手遅れになってから持ち込まれてきます。もう少し早めに言っていただければ、他にやりようがあるのですが……。

  われわれのところに来る病院再生案件は、理事会からの依頼になりますが、銀行さんから、「返済を待ってほしいというリスケジュールの要請がきたけれど、銀行としても病院の経営や将来性がよくわからないので、客観的な評価をしてほしい」というお話が多いんです。

  そこでわれわれとしては、事業計画立案を支援したうえで、「この程度の返済であればおそらく大丈夫でしょう」という見通しを立てるわけです。

  病院経営悪化の初期症状としては、医業収入の前年割れ、前年同月比割れが続くことが最初です。

  しかし医業費用は、人員も設備も固定的なので下げることはできません。さらにほとんどの病院は銀行借り入れで病院を建てていますから、医業収入が落ち込んでくると途端に利益が圧迫されます。よく考えてみれば、政府の方針から見て医業収入が今後頭打ちになるのは明らかです。ということは、なにか他の分野に進出するか、特化するか、何か手を打たなければ収入は増やせないはずです。その一方でコストはなかなか下げられません。つまり本来はこの時点で抜本的な戦略の変更が必要なのです。

  しかしこの段階で気がついて、「病院再生を始めよう」という人はあまりいません。なぜなら病院側に危機感がないからです。

  というのも先生方は数字をよく読めません。医療事務のみなさんには、病院経営への口出しは求められず、「この施設基準にしたら保険点数が上げられるのでは」とか、「レセプトはこう書くべきでは」といった細かいことばかり見ていて、誰も病院経営の大きな方向性や、長期的な資金繰りについて考えていないからです。

再生ケース1 病棟の建て替え戦略

 

たとえば病院の一部の医療施設を建て直すか閉鎖するかという判断が求められたとします。その判断のためには以下のような分析が必要です。

 
  • 病院を何のために、どう経営していくか、機能を考え、そのための予算を弾き出す
  •  
  • 患者と競合病院と、自病院の能力を勘案して方向性を探る
  •  
  • 医療圏とその中における競合関係を把握する
  •  
  • 自病院を分析して成長性や競争力があればそこを拡大する
3C分析

  たとえば他の病院との比較はどう考えるか。売り上げは単価×数量(患者数)になりますから、それを他の病院と比較すれば単価の低さが浮き彫りになります。

  また医療圏については、病院の場合はどこに住んでいる患者が多いかわかりますから、どの地域からの患者が多いかを絶対数で見たり、その地域の人口を考えてシェアを推計することも可能です。

  病院側に危機感を持っていただくことはさらに重要です。

  そのために一番インパクトがあるのは、まず時系列でこの数年間でどのくらい患者数が減っているか、医業収入が落ちているかを数字で示すことです。患者数が減っていなくても、単価が削られていますから。

  それに対して普通の病院は中途半端に投資や設備の更新を行っていますし、新しい機械が出たら稼動するかどうかは別にして飛びついて買っています、そうするとコストは当然上がり、利益が圧迫されることになります。こうした数字は一目瞭然です。

競合分析

病院が患者に選ばれる理由を客観的に考えよ

  それから患者さんにアンケートを取ります。外来の患者さんに「もしあなたが入院するなら、この病院にしますか?」と率直にたずねてみると、ある病院では800人の患者のうちで「いえ、他の病院に行く可能性があります」と答えた人がなんと40%にものぼりました。つまり「外来にはくるけれど入院はしたくない」と思っている人が多いわけです。この結果をどう考えるべきかが病院につきつけられます。

  「じゃあ、病院を改装してきれいにすればいいだろう」という解決策を思いつく人も少なくありません。これに対しては、「あなたは病院を選ぶときに何を一番重視しますか?」とアンケートすればよいのです。

  一般的な結果としては

      
  • 自宅や職場に一番近いから(6割近く)
  •   
  • 医師や看護師が親切
  •   
  • 名医・専門医がいる
  •   
  • 交通手段が便利
  •   
  • 医療設備が用意
  •   
  • 診療科目が多い
  •   
  • 前に来たことがある
  •   
  • 紹介されたから
  •   
  • 薬を出してくれる
  •   
  • 待ち時間が短い

   といった順番で、「建物施設がきれい」なことを病院選択の基準にしている人は8%にすぎません。さらにその病院で同じアンケートをとってみると、「自宅や職場に近い」とか、「前に来たことがある」という理由が多くて、普通の病院が選ばれる基準である「名医・専門医がいる」とか、「診療科目が多い」といった医療に関する理由で病院を選んでいる患者さんが少ないという傾向がありました。つまり積極的に選択した患者さんは少ないということでしょう。

入院患者の医療機関選択理由

   つまり病院側は一生懸命やっているつもりでも、患者側の評価はとてもシビアであることがわかります。  
  試しにその病院に当社のコンサルタントを新患として受診させてみたら、病院に入ってから診察を終えて出てくるまでに237分かかりました!

   さらにその病院への、近隣の診療所からの紹介について調べてみると、とても少ないことがわかりました。

  そこで近所の診療所の先生に「なぜその病院に患者を紹介しなくなったのか」と聞いてみました。その診療所は月に2-3人紹介してくれていますが、他の病院には30人以上も紹介しているわけです。

  先生に話を聞いてみると、「昔はよかったのにね」という話から始まって、「患者本人が希望したからその病院に紹介したけれど、そうでなければ他の病院を紹介している。他の病院はちゃんと経過を手紙で教えてくれ、しっかり連絡連携をしてくれるのに、その病院に送るとその患者がその後どうなったのかさっぱりわからない」といった不満を持っていることがわかります。  
  なるほど、これでは紹介しなくなるわけです。

   そのような客観的な数字や、第三者の評価を突きつけると、病院改革の担当の先生は、「腹が立つけれど事実だから反論ができない」と納得してくれます

  このケースは少し古いのですが、近隣の市場調査の結果、一般病床を回復リハに転床して、建て替えを行いました。ゼネコンに図面を書かせて、いつどのような規模で建て替えれば、費用や金利返済計画はどう変わるかをシュミレーションしたりしました。

  この病院はその時、改革の中心になった人が院長に昇格して、その後は順調な病院経営を行っています。

ケース2 銀行に納得してもらう再生計画づくりはこうする

  われわれのような会計系のコンサルタントが病院再生案件に入る一番のメリットは、銀行さんが納得するような再生計画を病院側と一緒につくることができることでしょう。計画ができたら、われわれは銀行との交渉に理事長と一緒に伺います。

  中規模の都市の中核病院で、病院の建て替えとPET導入を同時に行い融資を受けていたところがありました。ところがPETもあまり稼動せず、一方で看護師が集まらなくて施設基準が下げられてしまい、その結果利益が急激に圧迫されてしまったのです。

  PETは運営費がかかるので、PETさえなければ黒字でした。しかも借り入れの返済期間はPETや建物の償却期間より短いので、赤字の発生額も減価償却額よりも大きいですし、リースの金額は費用として発生していますからかなりの負担です。

  運転資金が足りなくなって困った病院は、地元の地方銀行や信用金庫からさらに借り入れを行い、よけいに話がまとまりにくくなっていました。それで2カ月くらいたって返済ができなくなってしまい、われわれも銀行交渉に入りました。こうなると、メインバンクさんには話をまとめるために泣いていただくことになります。差し押さえに入られたり、いろいろもめることもありますが、理事長さんが「もうイヤだ」といって手を上げない限りは、最後はうまくまとまるものです。

  われわれは病院に対しても危機感を持ってもらうように資料を作成しますし、銀行さんにも「収入増とコストカットを行い、赤字を解消してこの程度の利益を出せます」という数字を見せることができるからです。

  銀行へは、病院の単年度の事業計画と実行可能な中期的な事業計画を出す必要があります。そのためには病院経営の戦略について検討し、客観的な数字根拠を示さなければなりません。「環境保護のため」といった漠然とした理念ではなくて、「慢性期の患者を最後まで看取ることに取り組む」といった具体的なドメインと、どのような病院になりたいのかというイメージを策定しましょう。それに取り組むために資金繰りをつけたうえで、アクションプランに落とし、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回していけばよいのです。

  われわれは、どのようにすれば病院が生き残れるか一緒に考えます。

PDCAサイクル

  銀行側にも、医療機関を潰すことには抵抗があるようです。特に地域である程度中心的な病院を潰すことは、金融機関にとってもなるべくやりたくないことです。だから銀行も「病院を何とか支援してあげたい」という気持ちは、一般の企業に対してよりは持っていると考えてよいでしょう。

追いつめられた病院は、ひたすらコストカットでキャッシュをつくれ

  だいたい収支トントンからやや赤字という程度であれば、病院経営の病状はまだ急性期なので建て替えなども可能ですが、それが慢性期に入ってくると、最初のうちは赤字かつ減価償却分のキャッシュフローでなんとか運転資金は回りますが、そのうち減価償却もストップしてしまい、赤字の分キャッシュが足りなくなります。
  そうなると借入金返済のために新規借り入れをしたり、国民保険や健康保険の未収入金を流動化したり、だれかが持ってきた怪しい話で病院の建物を流動化したりと、坂を転げ落ちるように追い込まれていきます。それでも当面のキャッシュが確保できるので、抜本的な改革は先延ばしされてしまいます。

  こうなってくると、できることは、地道にコストをカットすることしかありません。収入に見合ったコストにするために、ゼロベースで、必要な支出以外はすべてカットします。少しでも材料費を下げるためにジェネリック薬に替えるとか、在庫をゼロにするとか。人件費は、特に看護師の給料には手がつけられません。反対に役員の給料はカットします。そして、「どうやって収入を上げるか」を考えなければなりません。
  リスケジュールをやると新規融資をしてもらえませんから、「病床を効率的に回すために配置を変えたい」とか、「建て替えたい」と思っても、できなくなってしまいます。ですから当面の利益を確保して、10年以内返済が可能なくらいのキャッシュフローを生みだして、金融機関に支援してもらうことが大切なのです。

  場所や競争環境によって患者数がどうしても減るのであれば、縮小均衡も選択肢のひとつになります。

  大都市では、徐々に患者が都市圏に集中しているので上向きな数字も描けますが、その地域の中でいくつかの病院が存在する場合、今後どのようにして戦うべきなのか考える必要があるでしょう。

  たとえば得意な分野に集中する特化戦略を考える。あるいは200床で一番低い看護基準で65%の病床利用率で回すよりも、100床にして高い基準で手厚い看護を行い、病院の評判を上げていく手もあるでしょう。これはリスクはあるものの割は悪くない経営方法です。とはいえ医療志向の強い先生方は嫌がります。であるならば、ケアミックスや転床も考えられます。

  公立病院は採算を度外視した医療を行っていますから、民間病院が施設の立派さやスタッフの数で、公立病院と戦うのは初めから無理です。しかしながら、患者満足度で公立病院に勝つことは可能なはずです。

疾患別患者推計

どうやって患者満足度を引き上げるか

  それからどこの病院でも問題となるのが、どのようにして患者満足度を引き上げるかということです。

  一般のサービス業であれば顧客満足度はかなり重要な指標になっていますが、医療界では、今のところどの病院でもあまり患者満足度については調査すらされていないのが実情でしょう。

  しかし、われわれが顧客満足度調査を行ってみると、その中に必ず問題点が隠れていることが明らかになります。患者側からすると、「もう少し話を聞いてほしい」とか、「もう少していねいに説明してほしい」といったことです。

  病院側から見れば、患者満足度のためにやればいいことはある程度見えています。たとえば電子カルテにするとか、患者さんを待たせないために予約診療にするとか、診療について患者が疑問を感じた時に担当医を決めて疑問をぶつけることができるセカンドオピニオン対応をするとか、根拠を示した納得の医療をするとか、クリニカルパスをきちんと出すとか、病院ホームページを充実させて診療相談をするとか、……そうしたことはいくらでもありますし、お金をかけずにできることも少なくありません。

  あるいは専門性で売りたいのであれば、一番いいのは、マスコミに出たり本を書いている有名な先生を連れてくることです。そういう先生が1人いるだけでずいぶん違います。また診療科もなるべく細かく書いておいたほうが、「この病院なら自分の症状にあった専門の診療科がある」という患者側のイメージを膨らませることができるという考え方もあります。

収益構造を理解するための構造分析

病院経営の危機感はスタッフ全員で共有すべし

  それから危機的な状況であることを従業員に隠している病院経営者も少なくありませんが、危機感は全員で共有してください。

  確かに経営危機が従業員に伝わると不安がられてスタッフが辞めてしまう恐れがあるかもしれません。しかし状況が苦しいことはすでにスタッフもよくわかっています。だから不安材料だけを伝えれば辞めてしまうかもしれませんが、「現状は厳しいけれどこのような理念で、このようなプランで再生に取り組むので、みなさん協力してください」と説明するわけです。

  さらに「再生に成功したらこのようなメリットがみなさんにもあります、ボーナスも増やします」と説明します。それから職員の給料は絶対に下げないことです。「給料は下げませんが、経費は湯水のようには使えなくなります。患者さんが減ると困るので今まで以上に患者さんとのコミュニケーションにつとめてください」と話せば、従業員も前向きに取り組んでくれるでしょう。

  また、患者さんの満足度を上げるための一定の権限を職員の皆さんに与えてあげてください。たとえば今日家族が見舞いに来れなくなった患者さんがジュースを飲むための小銭がない場合には、ジュース代を出してあげるとか、サービス向上のために何かしてあげられることがあればその分の費用を病院側が負担するといったことです。

  たとえば部署別の経費削減目標などの目標を従業員に持たせ、それを達成した場合には、病院から金一封を出してあげるといった前向きな施策により、従業員にチーム意識も生まれてくるでしょう。これらは民間では当たり前の手法ですが病院ではまったく取り入れられていないことです。

  病院の抱えている問題点は、病院のスタッフがよく知っています。なぜならスタッフは患者さんに一番よく接していて、患者さんが教えてくれるからです。彼らが病院の一番ダメなところと、一番変えるべき点を知っているのですから、これをうまく使わない手はありません。よく通ってくださる患者さんは、こちらが聞けば、嫌がらずにそうしたことを教えてくれます。そこで出てきた表面的な問題を分析して、根本問題を解決すればよいのです。

  ただし重要なのは、病院が抱えている固有の問題とその原因はそれぞれ違っていますから、ある病院の手法がそのまま他の病院の根本的な問題解決になるわけではないということです。

  表面的な改善だけでは、実はその病院の患者さんの不満解消には結びつきませんし、問題解決はできないでしょう。だから他の病院の解決策をそのまま当てはめようとするような医療コンサルタントは疑ってかかったほうがよいと思います。

患者とスタッフのために「利益を出せる医療を」

  とにかく何とかして利益を上げることができるようになるまでは、涙ぐましい努力が必要なのです。

  病院経営者のみなさんには、よい医療をちゃんと行うために、しかるべき利益を病院に残していただきたいと思います。

  目先の医療の質にこだわって、いい材料を使い、いい医療機器を購入することも大切でしょうが、きちんと利益を出すことによって、患者さんとスタッフ・従業員に報いてあげてほしいのです。従業員にはよい給料を払えばやる気が出ます。患者さんのためには野放図に施設を建てるのではなく、もっと使い勝手よく変えるとか、もっと便利な体制をつくるという形で還元してあげてください。

  利益を残せなければいつか病院は成り立たなくなります。だから利益を出せる医療を行うことはとても大切なことなのです。

  「ウチの病院はこのままではどうも回らないな、なんとかしなければ」と思った場合に、まずひとつだけ意識していただきたいのは、「怪しい」コンサルタントには絶対に頼らないでいただきたいということです。この業界の周囲には魑魅魍魎がうようよしていますから。
  そして今日お話ししたような手法を、あなたの病院でぜひみなさん一丸となって取り組んでいただきたいのです。そのためのお手伝いなら喜んでさせていただきますので。

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